SPECIAL FEATURE
パンから麺まで、食文化に合わせて、世界中で調理加工される小麦。聖書の冒頭「創世記(30章14節)」に、すでに小麦が登場する。日本でも奈良時代には、小麦、大麦が栽培されていたことが分かっている。平城宮跡から「小麦五斗」という文字が記された木簡が出土し、麦を詠んだ歌が「万葉集」にある。人類にとって、小麦は重要な作物だったことがわかる。
満月に向かって大きくなる三日月(crescent)、音をだんだん大きくする楽譜のクレシェンド(crescendo)、花粉が大きく育った穀物(シリアル:cereal)は、ラテン語の語形cre(核になる)に由来する。ローマ神話に登場する、農業を司る女神ケレース(Ceres)は、シリアルにあやかって呼ばれた。
ラーメン協会の2022年調査では、インスタントラーメン(即席めん)の年間消費量は、1位の中国/香港が450.7億食、2位のインドネシアが142.6億食、3位のベトナムが84.8億食とアジア諸国が突出している。日本は年間59.8億食で世界第5位。
近年の国際情勢などの影響で、小麦などの原材料が高騰し、麺類をはじめ、さまざまな商品の価格上昇が続いている。
Category : 文化
Date : 2023.06.21
公益財団法人味の素食の文化センター
一般財団法人製粉振興会
小麦や大麦は、人類最古の作物の一つとされ、約1万年前には既にその栽培が始まっていたと言われる。西アジアやイラクの山岳地帯の草原では、野生の大麦や小麦が自生しており、当時の人々はその種子や実を食べていたと考えられている。これは、それらが脂肪を多く含み、無毒であったことや、比較的栽培が容易だったことによるもの。新石器時代には、これらの穀物を豆や雑穀と一緒に焼いて食べるようになり、これが麦の食文化の始まりとされている。
小麦は、殻が堅くてそのままでは食べにくい穀物。そこで、小麦を挽いて粉にする方法が発見された。最初の小麦粉作りの道具は「サドル・カーン」と呼ばれる平らな石で、小麦を石の上に並べ、別の石を上に載せて前後に動かし、つぶしていた。これが製粉の始まりと言われている。
紀元前3,000年ごろ、古代エジプトで無発酵のパンが食べられており、紀元前2,000年ごろに石臼が登場し、より細かい粉を作ることが可能になり、発酵パンが誕生した。小麦の製粉技術が発達した紀元前600年ごろ、回転式の石臼であるロータリーカーンが登場。この技術が世界中に広まり、手動の石臼だけでなく水車や風車を使って小麦を挽く方法も考え出された。
18世紀の産業革命後、製粉技術はさらなる飛躍を遂げ、英国で大規模な製粉工場が誕生し、世界中に普及した。19世紀には、現代の製粉機の元祖となるロール機を用いた製粉工場も登場。より高品質な小麦粉が作られるようになった。
米の粉に水を加えて、ねって形をつくったのが「シトギ(餅の古名)」。水加減で個体になったり、液状にもできる。砂糖を加えると菓子になる。昔の日本では、正式な主食の調理法だった。いまでは神供用として、3月の節供のひし形(ひな祭りのひしもち)、5月の節供の三角の巻餅(こどもの日のちまき)など、シトギを成形したものを食す。また、米粉、小麦粉、大豆粉、もろこし粉、栃やどんぐりの粉などを、「ヒキモノ」と呼んだ。これは、手でまわす石臼でひいて粉にしたことに由来する。
「ヌカどこ」に野菜などを漬け込んで作る「ヌカ漬け」のヌカは、玄米から白米に精米するときにでる粉。かつては精米技術が粗雑で、ヌカに白米の部分が残っていたので、ヌカでオヤキや団子が作られた。現在でも奈良公園の「鹿せんべい」などに、ヌカが使われている。
いまから約1万年前の新石器時代に始まったと言われている小麦の栽培。原産地は中央アジアの高原地帯と考えられており、ここから長い時間をかけて世界各地へと広まった。紀元前7000年ごろ、シルクロードを通じて中国に伝わった小麦は、当時飛躍的に向上した鉄製農具により大量に生産された。その後、小麦粉と水を混ぜてこね、伸ばして細長い形状にした食品が誕生したとされる。
日本に伝わったのは、弥生時代。大麦、大豆、小豆とともに、朝鮮半島からもたらされたとされる。平安時代には、中国から小麦粉や米粉を使用した食品がもたらされ、「唐菓子」として知られるようになった。唐菓子の中に「索餅(さくべい)」と呼ばれるものがあり、これがそうめんの原型と考えられている。江戸時代には、朝鮮僧の元珍が小麦粉をつなぎとして使用する方法を伝え、それが「そば切り」という名前で広まった。
日本はうどん、そば、パスタ、ラーメンなど多くの麺類が食べられる、世界でも有数の麺大国です。麺と一口に言っても、種類豊富なラーメンやパスタなど、私たちの身近には様々な麺料理が溢れています。また、小麦以外の代替材料を使用した麺も存在します(グルテンフリー麺、米粉麺など)。ちなみに中国では「麺」という言葉は小麦粉のことを指し、「餅」は小麦粉を使った食品全般を指します。この餅は、調理方法により呼び方があり、水で煮る「湯餅」というものが、日本語でいう「麺」に発展したといわれています。
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