レアメタル憧憬

SPECIAL FEATURE

レアメタル憧憬

世界で取り引きされるメタル(金属)市場の95%を鉄(Fe, Iron)が占める。残り5%程度の非鉄のうち、需要量が100万トンを超える銅(Cu, copper)、鉛(Pb, lead)、亜鉛(Zn, zinc)を「ベースメタル」と呼称される。広義では、鉄とベースメタル以外の金属を「レアメタル」と呼ぶ。
レアメタルの厳密な定義はないが、技術的価値があり、非鉄金属専門の先物取引所のLME(London Metal Exchange:ロンドンメタル取引所)で取引されていない市場規模の小さい金属で、1984年に当時の通産省が定めた工業用需要が予測される「レアメタル31」を、レアメタルと呼ぶことが多い。
また、レアメタル31のうち、スカンジウム(Sc, Scandium)、イットリウム(Y, Yttrium)、ランタン(La, Lantern)からルテチウム(Lu, Lutetium)までの17元素の希土類に属する元素は「レアアース」とも呼ばれる。

Category : 科学

Date : 2022.11.11

参考文献

レアメタル超入門(中村繁夫著/幻冬舎刊)
宝石(崎川範行著/保育社刊)
資源リスクとサステナブルナ資源利用への道
レアメタルを戦略的に確保するために

 

レアメタルと共に革新する先端技術

近年、製品の製造コストに占める電子部品の割合が急増し、電子部品を構成しているのがレアメタル。普通自動車で20~30%、ハイブリッド車では50%以上のコストをレアメタルが占める。ランタン(La,Lantern, 原子番号57)などのレアメタルが無いと、小型大容量のタルタルコンデンサが製造できなくなり、いまの大きさと性能を有するスマートフォンは製造できない。また、電気自動車の製造にネオジウム(Nd,Neodymium, 原子番号60)、ディスプロシウム(Dy,Dysprosium, 原子番号66)、テルビウム(Tb,Terbium, 原子番号65)などのレアアースは不可欠となっている。

経済の暴騰暴落を引き起こすレアメタル

レアメタルは取引量が小さいため、取り引きされる価格の変動が大きい特徴がある。さらに、レアメタルはほかの鉱物の副産物として生産されるので、主な生産物の供給具合によって、レアメタルの供給が左右されやすい傾向にある。
一方で、資源の供給が不安定になると、必ず新技術が発達し、効率的な使い方が考え出される。世界の情勢や常識が変化する際、変化にどれだけ対応できるかが、企業の生き残りを左右する。
日本のEEZ(排他的経済水域)内にある南鳥島周辺の海底には、リチウムイオン電池の原料となるコバルトを多く含むマンガンノジュールと呼ばれるレアアースの塊があることが確認された。分布面積は四国と九州を合わせた広さに匹敵し、埋蔵量は日本のコバルト需要の約300年分に相当するという試算もある。

エコロジカル・リュックサック

リチウムイオン電池に使われる「コバルト(Co, Cobalt, 原子番号27)鉱石」生産の約60%以上はコンゴ民主共和国に、また、特殊鋼などの生産に必要な「タングステン(W, Tungsten, 原子番号74)」の9割以上、レアアースの約8割が中国で生産されており、レアメタルは地球上に偏在する。2018年、日本のレアアース輸入の58%は、中国からだった。
先進国から見れば、電気自動車は環境にやさしい乗り物だが、資源開発の現場では、環境破壊が進む。秘密採掘や乱開発が後を絶たず、コスト優先で効率よくレアアースを取り出すために、採掘現場に直接硫酸をかけてレアアースを浸出採取する生産方式が考え出されたが、1,000トンの鉱石から取れるレアアースは約2トン。つまり2トンのレアアースを生産するごとに、998トンの硫酸に汚染された土砂が、再処理されないまま、河川に廃棄される。
金属などの原料を生産するために動かされた鉱石、土砂、水、エネルギーなど環境に与える負荷を数値化する考え方で、自然資源をリュックサックに入れて背負っているという表現から「エコロジカル・リュックサック(エコリュック)」という概念が、1994年、シュミット・ブレーク博士によって提唱された。

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