SPECIAL FEATURE
芸術家たちが作品を生み出す瞬間、その真剣な表情や日常のひとコマを捉えた写真は、ただの記録にとどまらず、臨場感や物語を語りかける。ミシェル・シマやルネ・サン・ポールといったフォトグラファーは、芸術家の創造的な空間に寄り添い、時代の空気感や文化を肖像写真に織り込んだ。彼らの作品は、カメラを通じて芸術家の日常を垣間見せるだけでなく、私たちに人間の創造性とその背景にある物語の深みを伝えてくれる。
※世界中のギャラリーや美術館と提携し、高品質な美術画像を提供する英国の著名なフォトエージェンシー「Bridgeman Images」。特に「Premium Photography」セレクションは、厳選アーティスト作品だけを提供。
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Category : 報道
Date : 2024.12.11
パブロ・ピカソとの親しい関係で知られるミシェル・シマ(Michel Sima)は、1950年代、ピカソ、シャガール、モディリアーニ、ジャン・コクトーなど、当時の著名な芸術家たちのポートレート写真で名をはせた。シマのスタイルは、芸術家のアトリエや日常生活を自然体で記録することに特徴があり、創作活動中の真剣な表情や手の動き、周囲の物や空間を巧みに捉え、記録写真にとどまらず、被写体となった芸術家たちが作品を生み出す瞬間の臨場感や物語、親密な一面を映し出している点が高く評価されている。
ポーランド出身の彫刻家で写真家のミシェル・シマは、1940年代、ドイツ占領下のフランスで抵抗運動に参加し、ナチスによって逮捕され、アウシュヴィッツ強制収容所に送られた。この経験は彼の人生と作品に深い影響を与える。戦後、彫刻家として芸術活動を再開したが、後に彫刻から離れ、写真家として活躍した。フランス語で「木片の堆積」を意味する「アトリエ(atelier) 」は、木片が堆積する部屋、すなわち「大工の仕事場」に由来し、いまでは広く創作活動の場を指す。芸術家にとってのアトリエは、単なる作業空間を超えた特別な意味を持ち、創造性が最大限に発揮される創作活動の中心として機能する。ピカソのアトリエやロダンのスタジオのように、一部の芸術家の仕事場は、後世に残す文化遺産として保存され、観光地や研究対象となっている。
フランスの写真家、ルネ・サン・ポール(Rene Saint Paul)は、アルベール・カミュやジャン・コクトーなど、20世紀中頃の著名な文化人の肖像写真を撮影したことで知られ、フランス文化を記録した貴重な資料として評価される。特に1959年6月5日、パリのサンジェルマンデプレで行われたギヨーム・アポリネール(Guillaume Apollinaire)の記念碑除幕式で撮影したジャン・コクトーとアンドレ・サルモンの写真は有名。また、ルネ・サン・ポールは、合唱団(Les Choeurs Rene Saint-Paul)を立ち上げて、「愛の讃歌」や「パダン・パダン」などのエディット・ピアフの楽曲にコーラスとして参加するなど、ピアフとの共演も多い。
先史の土器づくりからはじまり、古代ギリシャ文化圏の絵画や中世欧州での聖像芸術などに、修道女たちに代表される女性芸術家の果たした役割は極めて大きいことが知られるが、意外なことに、人間の平等を主張したフランス革命後でも、女性は「エコール・デ・ボザール(パリの国立美術学校)」に入ることができず、女性の入学が許可されたのは1897年。日本では、戦後まで女性は美術学校に入学できなかった。
現在、2023年度の東京芸術大学の美術学部の男女比率は、男性が36.3%、女性が63.7%。2024年度の学生総数は1,999名で、うち男性は706名、女性は1,293名。ベルギーのアントワープ王立芸術アカデミーや米国ニューヨークのパーソンズ美術大など、海外の主要美術大学においても、学部によるバラツキがあるものの、男性が2~3割、女性が7~8割という傾向が際立っている。
ポートレートが高く評価されるミシェル・シマやルネ・サン・ポールなどのフォトグラファーは、自身が画家や彫刻家でもあり、芸術家コミュニティの一員として、日常的に芸術家らと交流し、深い友情を築いていたため、通常の記録写真では捉えられない、芸術家たちのリラックスした様子や創作過程を切り取ることができた。
アルベール・カミュやジャン・コクトーといった20世紀を代表するフランス文化人が、現代の私たちに残したものは、文学や芸術の枠を超えた深い哲学や感性、社会への洞察。カミュの哲学の中心にある「不条理」は、現代アニメにおいても頻繁に描かれるテーマで、「新世紀エヴァンゲリオン」の登場人物が自分の存在意義や生きる理由を問い続ける点は、カミュの哲学と共通し、「進撃の巨人」で巨人という理不尽な存在に対峙する人類の姿や、生きることへの問いは、カミュの不条理に対する「反抗的精神」に通じる。またカミュの「シーシュポスの神話」で描かれる「無意味な労働の中での希望」は、「Re:ゼロから始める異世界生活」や「ジョジョの奇妙な冒険」などのアニメ物語構造を想起させ、映画「千と千尋の神隠し」で千尋が異世界で成長する姿は、現実と夢の境界を曖昧にし、象徴的で幻想的なイメージを多用したジャン・コクトーの映画「美女と野獣(1946)」で主人公が魔法の城での経験を通じて変化するプロセスを思い起こさせる。
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