SPECIAL FEATURE
お岩(田宮岩)と貞子(山村貞子)は、共に日本のホラー文化において象徴的な存在。お岩は、江戸時代の戯曲「東海道四谷怪談」に登場するキャラクターで、夫によって毒を盛られて死んだ後、怨霊となって夫やその周囲の人々に復讐する。貞子は鈴木光司の小説「リング」シリーズに登場するホラーアイコンで、貞子は井戸に投げ込まれて死んだ後、呪いのビデオテープを通じて人々に復讐する。お岩は1825年(文政8年)7月、鶴屋南北(つるやなんぼく)の代表作として初演され、江戸後期の観客に大きな衝撃を与え、貞子は映画版によって広く知られるようになった。
お岩も貞子も、自身が受けた酷い仕打ちに対する強い恨みを抱き、裏切りや不正義に対する復讐のために恐ろしい力を発揮。どちらの物語も実在の事件や人物に基づくことで、観客にリアルな恐怖を感じさせる。現在、四谷にはお岩を祀る稲荷神社が2つある。
念写の発見者として知られる日本の超心理学者で、東京大学の助教授だった福来友吉(ふくらい ともきち:1869-1952)は、貞子のモチーフとされる高橋貞子の透視能力を心理学実験で検証しようと試みた。福来友吉は、自著「透視と念写」の中で、高橋貞子がすべての透視実験に成功したと述べた。
Category : 歴史
Date : 2024.08.07
心霊現象研究協会 (Society for Psychical Research)
千里眼事件とその時代
四谷怪談‐悪意と笑い‐(廣末 保著/岩波書店刊)
山や木などの自然物が人の顔に見える「パレイドリア(pareidolia)」現象は、無意味な形やパターンに対して人間の脳が意味を見出そうとする認知バイアス。錯覚や幻覚の一種とされることもあり、アートやデザインのインスピレーション源としても利用される。
人間の脳(特に後頭葉)は、進化の過程で社会的交流や危険の回避において重要な役割を果たすため、迅速に顔を認識する能力を発達させた。その結果、曖昧な形状でも既知の形、特に顔のようなパターンを見つけることが多くなる。例えば、月の模様(クレーターの低地)は、日本では「餅をつくウサギ」、北欧では「本を読むおばあさん」、南欧では「大きなはさみのカニ」、東欧では「女性の横顔」、アラビアでは「ほえるライオン」とさまざまに解釈される。
歌川国芳(1797-1861)の浮世絵、中山道(木曽街道)六十九次シリーズの48番目、細久手宿(岐阜県瑞浪市)を描いた版画「武士の堀越大礼と朝倉東郷の幽霊(1852)」は、実話に基づく歌舞伎劇「東山桜草紙」の一場面を描く。外の雪と茂みが頭蓋骨と磔刑の人物に見えるパレイドリアを巧みに取り入れている。
超心理学者は、都市伝説やフォークロアに加え、幽霊や霊的存在の目撃談や心霊写真の多くが、暗がりや曖昧な光の中でのパレイドリアによるものである可能性を研究。これにより、人々がどのように超常現象を知覚し、報告するのかを分析する。パレイドリアは、文化的背景や信念体系にも影響され、ある文化ではパレイドリアによって見られる形が聖なるものであるとされることもあり、別の文化ではそれが悪霊や予兆とされることもある。
超心理学(Parapsychology)は、テレパシー(思考伝達)、予知(未来予知)、透視、サイコキネシス(念力)、幽霊現象、再生(生まれ変わり)など、通常の科学的手法では説明しにくい心霊現象や超常能力を研究する学問分野。科学的に証明されていない内容も多く、主流の科学界では懐疑的に見られるが、これらの現象を研究することで、ヒトの意識や潜在的な能力について新たな洞察が得られる可能性がある。
誰かがUFOを見たと報告すると、同調して「私も見た」と感じる人が増える。集団や地域で心理的同調が現れる現象が「集団ヒステリー(Mass Hysteria)」。メディア報道やウワサの拡散に加え、特に社会的な不安が高まる時期に、短期間に超常現象の目撃や体験情報が急増し、人々の不安や期待が増幅される。集団ヒステリーは、ヒトの心理や社会構造に深く根ざした現象で、単なる個々の錯覚や誤解では説明できない複雑な問題。
お岩の幽霊は、醜く崩れた顔と腫れ上がった片目で描かれることが多く、貞子は長い黒髪で顔を隠し、白い服を着た姿で描かれる。美容産業が製品や治療法を積極的に宣伝している影響が無視できないものの、多くの女性が「ほうれい線」や「セルライト」をリアルに恐れる。これには見た目への関心、自己イメージ、健康意識、社会的プレッシャーが複雑に絡み合い、美しさに対する不安を引き起こし、多くの女性がこれらの問題の解消や予防に強い関心を持つ。また、お岩と貞子の物語は、いずれも当時の社会問題や倫理観を反映しており、観客は自身の日常生活や社会の状況と重ね合わせることができる。
ホラー映画は、恐怖、緊張、驚きといった感情を安全な環境で体験でき、世界共通に女性の観客比率が高い傾向にある。研究によれば、女性は他者の感情に対して高い共感能力を持っており、ホラー映画のキャラクターに感情移入しやすいと言われる。また、女性は社交的な鑑賞体験を好む傾向が報告されている。
ホラー映画を観ることで、観客は自分の恐怖を安全に直視し、克服する感覚を味わうことができ、自己肯定感が高まり、特に女性にとってはストレス解消の手段となるといわれる。また、恐怖によってアドレナリンが分泌されることで、一時的な高揚感や興奮を味わうことができ、この感覚が多くの人にとって快感であり、特に女性に人気。
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