祝祭日が明かす世界史

SPECIAL FEATURE

祝祭日が明かす世界史

祝祭日は、歴史的、宗教的、農耕に関連する出来事に根ざし、集団が共通の目的や価値観を再確認して強化する機会。文化人類学者エミール・デュルケーム(Emile Durkheim)は、祝祭や儀式は「集団的興奮(collective effervescence)」を生み出し、人々の社会的結束と連帯感を強める役割を果たすという。伝統や文化を継承する手段でもあり、例えば、宗教的祝日(クリスマス、ラマダン、ディワリなど)は、信仰の伝統を子孫に教え、共有するための重要な機会を提供する。
また、文化人類学では、祝祭日は人々の時間の管理に関わる役割を果たしていると考えられ、多くの祝祭日は、農業サイクルや自然のリズム(季節の変化、収穫期など)に関連し、社会的なサイクルや時間のリズムを定義する重要な要素。つまりカレンダーとしても機能する。
文化人類学者ヴィクター・ターナー(Victor Turner)は、儀礼的な祝祭が「コミュニタス(平等な社会的絆の感覚)」を生み出す一方で、同時に既存の階層や役割を強化する側面もあると指摘。日常生活の緊張やストレスを緩和する機能(カタルシス、無礼講によるガス抜き)も果たすという。さらに、祝祭日が経済活動の活性化の役割を果たしている点も無視できない。祝祭は物品やサービスの消費を促進し、特に贈り物、衣装、食事などに関する経済が一時的に繁栄する経済的側面も祝祭日の継続的な存在を支える要因となっている。

Category : 歴史

Date : 2024.10.23

参考文献

世界の祝祭日の事典(中野 展子著/東京堂出版刊)
文化人類学入門(祖父江 孝男著/中央公論社刊)
世界の祝祭日とお菓子(高野 麻結子編/プチグラパブリッシング刊)
世界の祝祭日(JETRO)
国際デー(国連広報センター)
U.S. Christmas season shopping – Statistics & Facts

土地・歴史・文化に根差したユニークな世界の祝祭日

米国やインドの独立記念日、日本の建国記念日、韓国の開国記念日、フランスの革命記念日、1989年のビロード革命(スロバキアでは静かな革命)で、チェコスロヴァキアの社会主義体制が崩壊して民主主義に復帰した11月17日を、チェコの祝日「自由・民主主義闘争記念日」と呼ぶなど、名は異なるものの、歴史的な独立や建国の出来事を記念し、その意義を次世代に伝える祝祭日(National Holiday)は多い。
一方で祝祭日(Public Holiday)のもたらす経済効果は大きく、クリスマスは世界最大規模の経済効果を生むイベント。米国では約90%の国民がクリスマスを祝い、クリスマスシーズン中の小売業の売上は1兆ドル(約150兆円)に達し、76万8千人の雇用を創出するとの試算もある。消費支出の大幅な増加の背景には、リミナリティ(Liminality:非日常)の需要創出があり、祝祭日は、日常生活からの一時的な解放や、非日常的な体験を求める消費者心理を刺激する側面もある。祝祭日が果たす経済活動は、祝祭日自体の継続的な存在を支える大事な要因と見ることもできる。

祝祭が画家に与えるビジュアルインパクト

祝祭日は、特定の文化や社会のアイデンティティ、価値観、伝統を反映しており、画家にとって文化的な意味を探求する機会を提供する。ピーテル・ブリューゲルは、16世紀のネーデルランドの農民や庶民が祝祭日を楽しむ様子を数多く描き、歴史的な資料としても価値がある。フランシスコ・デ・ゴヤは、「サン・イシードロ祭り」で、スペインのマドリードで行われる祭りの様子を描き、活気に満ちた人々の姿や感情の盛り上がりを表現。ジェームズ・エンスールは、「仮面の祝祭」で祝祭日という明るいテーマを利用しながらも、社会的な問題や人間の本質を批判的に捉えた。クロード・モネの「フランス国旗の日」では、フランスの祝祭日(7月14日の革命記念日)を祝う街の活気を色彩豊かに表現し、祝祭日の華やかさを視覚化した。
祝祭日は、仕事、家庭、社会的義務などで普段は抑圧されがちな感情を発散する機会として、日常からの解放とカタルシス(精神的浄化)を促し、社会的な規範やルールが一時的に緩和される「逆転の時間」として機能。逆転現象はミスルール(misrule)概念と関連し、カオスや反秩序の状態は、画家にとって強いビジュアルインパクトを持ち、観る者に新しい視点を提供し、同時に日常生活での秩序や安定を逆に強化する役割を果たす。

祝祭の花と菓子が映し出すカレンダーとシンボリズム

地域と気候、文化、宗教、伝統に基づいて、特定の花が、祝祭日の象徴や装飾として使われる。メキシコの「死者の日(Dia de muertos)」では、マリーゴールドが太陽の色と熱を込めていると信じられ、死者を導くための重要な花とされる。カトリック教圏の「諸聖人の日」では、亡くなった人々を悼むために、墓地や祭壇に菊の花が供えられ、願いや祈りを象徴する役割を果たす。菊は多くの国で、死者を悼む秋の花として親しまれ、ハロウィンの死者に関連したテーマとも結びついている。
クリスマスを象徴する花として広く知られるポインセチアは、メキシコ原産の植物で、クリスマスの時期に咲くことから、現地では「ノーチェ・ブエナ(Nochebuena、聖夜)」と呼ばれるが、欧米に広まったのは19世紀から。ポインセチアが定着する以前は、常緑樹(モミの木、ヒイラギ、アイビー)や、クリスマスローズ、ミストルなどが、キリスト教文化圏において重要な意味を持った。
中世ヨーロッパでは、バラは聖母マリアを象徴する花とされ、冬の寒さの中でも花を咲かせるクリスマスローズは、クリスマスや宗教的祝祭に使用される。ミストル(ヤドリギ)は、古代ケルト文化や北欧神話に起源を持ち、冬でも緑の葉を保つことから生命力の象徴として、クリスマスの装飾として広く使われる。
イスラム文化では、具体的な花が特定の祝祭に結びついている例は少ないが、花が持つ象徴的な意味や美しさが、イスラム文化の中で大切にされている。バラはスーフィズム(イスラム神秘主義)で精神的な愛や美を象徴。ジャスミンの香りは「楽園の香り」として神聖視され、チューリップは特にオスマン帝国時代のトルコで重要な象徴。
また、菓子の多くは、宗教的儀礼や農耕文化、季節の移ろいと深く結びついており、祝祭日や特定の行事における食文化として長い歴史を持つ。特に、日本や欧州の菓子は自然や四季を反映していることが特徴。

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