なまずと地震

SPECIAL FEATURE

地震つきあう
‐地球のからくりとトリセツ‐

ハワイは、毎年約10センチ日本に近づいていて、そのうち日本にぶつかる。富山県は、東京都に毎年約2センチ近づいている。2011年、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、海岸線が東方向に最大で5.2メートル、沈下方向に最大で1.2メートル動いた。複数のプレート境界上に位置する日本のカタチは、地殻変動によって、日々変形している。この変形(ひずみ)は、地下のエネルギーの蓄積を示し、蓄積されたエネルギーが急激に解放され、地震波として伝わる自然現象が「地震」。
地球の表面は複数のプレート(硬い板状の岩盤層)に覆われ、流動しやすいコンニャクのような層(アセノスフェア)の上に浮いているため、ゆっくり動くことができる。この運動を「プレートテクトニクス」と呼び、大陸が移動する現象を引き起こし、マグマを作り出す。
海底にある「海洋プレート」は、大陸を作っている「大陸プレート」に比べて密度が高く重いので、2つのプレートがぶつかり合うところでは、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいく。地殻変動には、プレートがゆっくり動くもの、急激に動くものがあり、急激に断層運動が発生するものが「地震」。また、地殻変動には火山活動に伴う局所的にみられるものも知られる。日本は110の活火山を有する。

Category : 歴史

Date : 2024.05.16

参考文献

地球を突き動かす超巨大火山 新しい「地球学」入門(佐野 貴司著/講談社刊)
日本列島の動きを見張る‐GEONETによる地殻変動監視‐(佐藤 雄大著/国土交通省国土地理院)
地震発生のしくみ(国土交通省 気象庁)

地震と対話する

地震発生時、地球内に「地震波(振動)」が、震源から放射状に伝わる。地震波には、P波(Primary wave:縦波)と、S波(Secondary wave:横波)があり、P波はS波よりも速く伝わるため、P波とS波の到達時間の差を利用して、発生場所(震源の位置)を特定できる。P波は地震計(Seismograph)で最初に検知でき、地震の規模を特定して警報を発することで防災に役立てる。P波は固体、液体、気体を伝わることができるが、S波は液体や気体を伝わることはできない。
地震の大きさを表す指標の「マグニチュード」をはかる方法は、震源から発生した地震波の強さではかる方法と、断層運動の大きさではかる方法の2つがある。マグニチュードは対数尺度で、マグニチュードが1増えると、地震のエネルギーは約32倍になり、2増えれば約1,000倍になる。マグニチュードは世界共通で用いられるが、使っている計算式や地震観測網が違うために、同じ地震でも、国内外で数値が異なることがある。
震度は、その国の建物の壊れやすさなどにより異なる。日本では、震度計で観測し、0、1、2、3、4、5弱、5強、6弱、6強、7の10階級で表す。一方、海外では主にMM震度階(モディファイド・メルカリ・スケール:改正メルカリ震度階)という12階級での表現を使っている。

地震多発時代に対応する

建物の耐震構造には、地震の揺れに対して、建物自体を強くする「耐震構造」、基礎と建物の間に免震装置を入れ、建物自体の揺れを軽減させる「免震構造」、建物内部に制震装置を取り付けてエネルギーを吸収する「制震構造」の3種類に大別される。また、耐震構造の種類で、不動産価値が異なるといわれる。1995年の阪神・淡路大震災、また2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)で免震建築物が無被害だったことから、日本では免震構造への関心が高まり、普及が進む。
地震は、地滑りや土砂崩れを誘発する土砂災害に加え、電気、水道、ガスなどのインフラにダメージを与え、ライフラインを断絶。日常生活に支障をきたすことがある。現時点の叡智では、地震の予測が難しいため、定期的な避難訓練、地震発生時に持ち出せる非常持ち出し袋の用意など、日常からの備えが重要で、地震発生時には冷静な行動が求められる。

自然の脅威は神々の仕業と見なす

日本では、江戸時代に、地下に棲む「大ナマズ」が動くと地震が起きるという民間信仰がある。古代のギリシャ神話では、地震は海神ポセイドンの力によってもたらされ、北欧神話では、悪戯神ロキの激しい苦悶によって地震が引き起こされ、ロキの怒りや振る舞いが地上を揺さぶると信じられた。
新約聖書の「ヨハネの黙示録」では、地震は神の怒りや大いなる出来事の前触れとして描かれ、旧約聖書の「創世記」に登場する古代の町「ソドムとゴモラの破壊」は、邪悪な行いに対して神の怒りを買い、破壊されたとされる。破壊方法は、地震によって地盤が破壊され、火山活動や地殻変動が発生し、それが火災や硫黄の降下を引き起こしたという説がある。
絵師の喜多川歌麿が2歳、葛飾北斎が生まれる5年前の1755年に発生したリスボン大地震は、津波と火災を引き起こし、ポルトガルの首都を壊滅させた。当時27万5,000人の人口を数えたリスボンは、最大で9万人が死亡。同時に国家が地震後の対応と復興に責任を持った最初の近代的災害といわれ、欧州社会に多岐に影響を与え、新しい科学技術の数々を誕生させた。日本では、1754年から1757年にかけて、東北地方を襲った大洪水による凶作で、約5~6万人の餓死者がでた(宝暦の飢饉)。

大ナマズが暴れるから地震が起こる

1855年の安政江戸地震は、推定マグニチュード6.9の直下型地震で、本所、深川、浅草、下谷などの地盤の軟弱な地域で1万4,000戸の民家倒壊など甚大な被害を出した。地震のメカニズムが不明瞭だった時代、地震後、人々は地下の大ナマズが地震を引き起こすと信じ、「鯰絵(なまずえ)」と呼ばれる風刺画が人気を博した。鯰絵は、困難な状況を乗り越えて、復興や再建に努力できる闊達な「応援歌」的役割も担ったといわれる。
大ナマズ退治は迷信にもかかわらず、復興は迅速に行われ、幕府は災害時の炊き出しや「お救い小屋」と呼ばれる避難所の設置、物価の抑制などの対策を実施した。江戸の人々は災害に組織的に対処し、防災都市を築き上げた。その姿勢から、現代の防災・減災対策に多くのヒントが得られる。

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