SPECIAL FEATURE

へべれけパラダイス
‐ 酩酊の達人列伝 ‐

古今東西、歴史に名を残した偉人たちの中には、酒を愛し、その飲みっぷりで語り継がれる者は少なくない。酩酊の果てに生まれた逸話や、酒をともにしたからこそ生まれた名作、時に酒は、自由な発想や大胆な表現を引き出す「創造の燃料」として、偉大な芸術家たちに新たなインスピレーションを与えた。
一方で地域の風土、気候、土壌は、その土地で作られる酒の味わいに直接影響を与えるため、酒は風土を反映した身近な文化的産物のひとつ。酒を通じてその土地の歴史や人々の暮らしに触れることができ、紀行文学や旅の体験にはしばしば登場する。特に日本では「一杯の酒を交わす」という行為が、親交を深める伝統的な手段とされる。
ワインの歴史を紐解くと、紀元前6000年から4000年頃のコーカサス地方（現在のジョージア、アルメニア）やイランの山岳地帯にまでさかのぼり、何千年にもわたる人類とブドウの関わりの物語があり、文化、宗教、経済、芸術など、さまざまな側面に影響を与える。日本酒の起源は、少なくとも紀元前3000年の縄文時代まで遡るとされ、日本酒の原型は、自然発酵による米の発酵酒だったと考えられている。古代の酒は「口噛み酒」と呼ばれ、女性たちが口の中で米を噛んで唾液中の酵素で発酵を促す方法が使われ、神事や祭祀の一環として、神々に供える「御神酒」としての役割があった。やがて、米を麹菌で糖化させる技術が導入され、より効率的な日本酒の醸造が可能となり、現在の日本酒作りの基礎となっている。

新洋酒天国（佐治敬三著／文藝春秋刊）
酒飲みの心理学（中村希明著／講談社刊）
酒と健康（高須俊明著／岩波書店刊）
日本酒をめぐる状況（農林水産省）
お酒にはどれくらいの税金がかかっているのですか？（財務省）
Global status report on alcohol and health 2018 (WHO)

酒を媒介に創造力を芸術に昇華させた芸術家たち

酩酊は、文学において現実を超えた幻想や感覚の変容を描く重要なテーマで、作家たちは酩酊状態を通じて、現実逃避や自己の深層探求、時には破滅へと向かう人間の姿を描いてきた。エドガー・アラン・ポーの恐怖文学から、シャルル・ボードレールの詩的表現、さらにはドストエフスキーやフィッツジェラルドによる破滅的な酩酊の描写まで、酩酊は文学作品において深い象徴性を持っている。フランスの詩人シャルル・ボードレールは、酩酊は、単なる飲酒による酔いではなく、人生の意味を見つけるための意識の高揚を象徴するという。
信仰に目を向けると、キリスト教におけるパンとワインは、聖餐（せいさん）や聖体拝領と呼ばれる儀式で中心的な役割を果たし、イスラム教では預言者ムハンマドの教えによって飲酒が禁止されている。ユダヤ教における飲酒の位置づけは、完全に禁止されているわけではなく、むしろ宗教的な儀式や祝祭において重要な役割を果たし、仏教徒が守るべき基本的な戒律「五戒（不殺生：生き物を殺さない、不偸盗：他人のものを盗まない、不邪淫：不道徳な性行為をしない、不妄語：嘘をつかない、不飲酒：酒を飲まない）」から、仏教徒の飲酒は禁止されている。
一方で酒を神聖視し、神々への捧げ物や儀式の一環として使う信仰は、世界中の宗教や文化に見られる。ギリシャのディオニュソス（ローマではバッカス）やインドのソーマ、古代ケルトのミード（蜂蜜酒）、日本の神道における日本酒など、酒は神聖な存在とのつながりを強め、現実を超える感覚や精神的な体験を提供するものとされてきた。

アメリカの推理作家、フィリップ・マーロウ（レイモンド・チャンドラー）は、酒豪としての評判は広く知られており、酒を好んで飲むことで有名だった。彼の作品には、自身の飲酒体験が反映されているといわれる

アーネスト・ヘミングウェイは、ノーベル文学賞を受賞したアメリカの作家で、酒豪としても知られている。彼は特にカクテルやワインを好み、彼の作品や私生活には多くの飲酒に関するエピソードが含まれている。ヘミングウェイは、その酒豪ぶりから「酒を飲む作家」としての評価も受けた

チャールズ・ブコウスキーは、アメリカの詩人および小説家で、その作品には自身の飲酒体験が色濃く反映されている。ブコウスキーはしばしば酒に酔いしれている場面を描写し、自身も酒豪として知られている。彼の作風や人生観には、酒が重要な役割を果たす

アメリカの作家ウィリアム・フォークナーも、酒豪として知られる。彼は南部アメリカの文化や社会を描いた作品で有名で、彼自身の飲酒習慣もその作品に影響を与えたとされる。彼のアルコール依存症は、彼の人生と創作活動に大きな影響を及ぼした

ロシアの作家レフ・トルストイは、晩年に酒をやめるまで、酒豪として知られていた。彼は「戦争と平和」や「アンナ・カレーニナ」などの名作を著したことでも有名だが、彼のアルコールに対する態度は生涯にわたって変わっていったとされる

ビート文学の代表的作家ジャック・ケルアックも、酒豪として知られている。彼の自伝的小説「地下鉄道の道」などには、彼自身の飲酒やその影響が反映されている。ケルアックは、飲酒を含む放浪の生活を描いた作品で有名

新しいワインを試飲するフランツ・シューベルトとラハナーとバウエルンフェルト。酒豪として知られているシューベルトは、友人や音楽家とともに飲酒を楽しむことが多かった

ベートーヴェンは、その音楽的才能とともに、酒を好んで飲んだことで知られている。彼は、音楽的な創造性と同時に、生活の中での飲酒も楽しんでいたとされている

ベルギーのシンガーソングライターであるジャック・ブレルは、酒を愛し、しばしば酒場やパーティーで過ごすことが多かったとされている。ブレルの歌詞やパフォーマンスにも、彼の人生観や飲酒が反映されている

アメリカのジャズベーシスト兼作曲家チャールズ・ミンガスも、酒豪として知られている。時にはその飲酒がトラブルを引き起こすこともあった。彼の音楽や生涯には、彼の飲酒習慣が影響を与えたといわれる

アメリカのジャズトランペット奏者であるジェームス・ジョンソンも、その酒豪ぶりで知られる。彼は、飲酒と音楽活動の両方で知られており、その影響で健康に問題を抱えることもあったが、そのライフスタイルが影響を与えた部分もあるとされる

アメリカのロックバンド「ザ・ドアーズ」のフロントマンだったジム・モリソンも、酒豪として有名。モリソンは、アルコールやドラッグの乱用が彼の創作活動や人生に大きな影響を与える。その音楽や詩には、彼の人生観や飲酒が色濃く反映されている

左利きのギタリストとして有名なジミ・ヘンドリックスは、ジョニーウォーカー（ウイスキー）の40種類以上の原酒をブレンドしたレッドラベルのフリークで、バックステージに常備するほどだった

イギリスのギタリストでシンガーソングライターのエリック・クラプトンはアルコール依存症を経験したことがある。彼は飲酒問題に悩まされ、その影響を公私にわたって受けることがあったが、後にリハビリを経て、アルコール依存症から回復したことを公にしている

「酔拳」（1978年）ジャッキー・チェン主演のカンフー映画で、飲酒と武術を融合させたユニークな作品。「酔拳」は、酔いながら戦うという古代中国の武術スタイルを描いており、主人公が飲酒によって身体の動きが予測不能になり、強力な戦闘技術を発揮する姿が印象的。ブレイキンにも影響をあたえる

「酒とバラの日々」（1962年）飲酒の依存症をテーマにしたシリアスなドラマ。夫婦がアルコール依存症に陥り、次第にその影響で生活が崩壊していく様子を描く。この映画は、飲酒が引き起こす問題をリアルに描写し、アルコールの怖さとその依存の深刻さを考えさせられる作品

「ハングオーバー！シリーズ」（2009年～）コメディ映画で、飲酒によって引き起こされる奇想天外な展開を描いた作品。酔った勢いでの行動が次々とトラブルを引き起こし、笑いとスリルが満載の内容になっている。飲酒がストーリーの進行役として重要な役割を果たす

「バードマンあるいは（無知がもたらす予期せぬ奇跡）」（2014年）飲酒そのものがメインテーマではないが、登場人物たちの酒にまつわる行動がストーリーの緊張感を高めている。主人公が、かつての映画スターとしての名声を取り戻すために奮闘する中、精神的な苦しみからアルコールに依存してしまう姿が描かれる

「ドランク」（2020年）アルコールがどのように人生に影響を与えるかをユーモラスかつ感動的に描いた作品。飲酒の喜びと危険性のバランスを巧みに描き、観客に深い印象を与えた

「ロスト・ウィークエンド」（1945年）アルコール依存症に苦しむ作家の姿を描いた傑作。アルコールの持つ破壊力と、それに打ち勝とうとする人間の強さをテーマにしている。この映画は、当時としては非常にリアルなアルコール依存症の描写で話題となり、アカデミー賞を含む多くの賞を受賞した

現実を超えた新感覚と視点を提供する絵画と酩酊

世界には酒にまつわることわざが山ほどあり、酒がもたらす楽しさと、時に引き起こす悲劇的な結果の両面を伝えてきた。これらの言葉は、酒に対する節度と自己管理の重要性を強調し、飲み方によっては薬にも毒にもなることを警告している。古代中国や日本の文学にも登場する「酒は百薬の長」や「酒はうれいの玉箒」といった表現は、酒が心身に与える影響を象徴的に語り継いできた。
フランスの画家ピエール＝オーギュスト・ルノワールは、「時は金なり」といった表現を作品内で具現化し、時間の流れや人間の有限性を描いた。短い形式の中で広範な世界観や深い感情を伝える俳句や川柳も、ことわざの影響を強く受ける。ヨーロッパを中心とした画家たちは、酒を日常生活や社交の象徴として取り入れ、その描写を通じて当時の社会や習慣を表現した。また、酒神バッカスのように、神話や宗教における象徴的な意味合いも深く関係する。さらに、印象派やポスト印象派の画家たちは、時代の風景や人々のライフスタイルを反映させた作品において、酒を含む場面をしばしば描いている。

ローマ時代のモザイク「メメント・モリ」 | ナポリ国立考古学博物館。死を意識することで生について考える、キリスト教的な芸術作品において「メメント・モリ」はこの文脈で使用されることが多い

ギリシャ神話に登場するサテュロスはワイン好きだった。岩の上に横たわる、酔っ払った年老いた「サテュロス像 | ナポリ国立考古博物館」

ディオニソス（バッカス）は、古代ギリシャのワイン、酩酊、出産、演劇の神とされる。「バッカス（カラヴァッジョ） | 1598年頃 | ウフィツィ美術館（フィレンチェ）」

酔っ払いたちに冠をかぶせるバッカス。ゴヤの作品「The Drunkards, after Velazquez（ベラスケスの後の酔っぱらいたち） | 1778年 | メトロポリタン美術館」

女性とワイングラスに囲まれた酩酊状態の英雄ヘラクレス。「ニンフとサテュロスに導かれる酔っぱらいのヘラクレス（ピーテル・パウル・ルーベンス） | 1615年頃 | アルテ・マイスター絵画館（ドレスデン）」

二人の娘からワインを注がれるロト。「ロトと娘たち（ロレンツォ・リッピ） | 1645年 | ウフィツィ美術館（フィレンチェ）」

「最後の晩餐 | ダ・ヴィンチ | 1495年」。キリスト教において、パンは「イエス・キリストの体（肉）」を、ワインは「イエス・キリストの血」を象徴としている

ヤン・ステーンの描いた庶民の宴会のようす「The Dissolute Household（ふしだらな家庭） | 1663年 | メトロポリタン美術館」

ヤーコブ・ヨルダーンスの作品には、酒が入って夜通し乾杯を繰り返す宴が描かれる。「The Bean King (The King Drinks) | 1638年 | エルミタージュ美術館（サンクト・ペテルブルグ）」

「Gin Lane（ジン横丁） | 1751年」。ジンによって堕落・困窮し、飢えた貧困層の様子を描いた、ウィリアム・ホガースの作品。ニューヨーク公共図書館

ポール・セザンヌもまた酒を好み、特に静物画にワインのボトルをよく描いていた。「The Basket of Apples（リンゴの籠のある静物） | 1893年 | シカゴ美術館」

酒豪で知られるヴィンセント・ヴァン・ゴッホの作品「The Drinkers（酒飲みたち） | 1890年 | シカゴ美術館」

ワインを飲む坂田金時（金太郎）。葛飾北斎の「Sakata Kintoki Drinking Sake Wine | 1615年 | メトロポリタン美術館」

歌川国貞の「芸者を連れた力士の黒岩と象ヶ花 | 1845年」。黒岩の持っているグラスに注がれる酒を見ると、この時代の酒は黄味がかっていたことがわかる

「ワインセラーの修道士（エドゥアルド・グリュッツナー） | 1846年頃」。ワインはキリストの血の象徴であることから修道士は好んでお酒を飲んでいた

ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの晩年は、精神的な不安定さやアルコール依存症が影響を与えていたといわれる。ゴッホは多くの作品を描いたものの、その飲酒が彼の創作活動や生活に影響を与えたことが後の研究で明らかになった

ポール・ゴーギャンも酒豪として知られており、彼の生活や作品にはその影響が見られる。ゴーギャンは、アルコールを頻繁に摂取し、その影響で健康問題を抱えることがあった。彼の作品には、彼の内面的な葛藤や社会からの孤立感が反映される

ジャン＝ミシェル・バスキアも、酒豪として知られる。バスキアは、飲酒とドラッグの乱用が彼の短い生涯に大きな影響を与えたことが知られている。彼の作品には、彼自身の苦悩や社会的なメッセージが色濃く反映される

フランシス・ベーコンは、酒豪として有名で、その人生の中で飲酒が大きな役割を果たした。ベーコンは、常に酒を飲みながら社会的なパーティーに出席し、生活の一部として飲酒を楽しんだ。彼の作品には、感情的な葛藤や精神的な苦悩が表れている

サルバドール・ダリも、飲酒の習慣があったことで知られている。ダリは、奇抜な生活スタイルや奇想天外なアイデアとともに、飲酒を楽しんでいたことが報告されており、彼の作品や公私にわたる奇妙なエピソードは、彼の飲酒習慣と関連付けられることがある

酒は風土を反映する地域のアイデンティティ

8世紀頃からケルトの修道士が穀物を発酵させて蒸留し、薬用酒として「アクアヴィテ（aqua vitae、命の水）」と呼ばれるアルコール飲料を作り、15世紀にアイルランドで「ウィスケ・ベーハ（uisce beatha）」と呼ばれる蒸留酒が登場し、「ウイスキー」の語源とされる。世界史に頻繁に登場するジン（Gin）は、ジュニパーベリー（Juniper Berry）で香りづけされた辛口な蒸留酒で、いまではカクテルの定番。16世紀のオランダで生まれた薬用酒「ジュネヴァ（Genievre）」を起源に持ち、英国で「ジン」として広がり、18世紀には「狂気のジン時代（Gin Craze）」と呼ばれる大流行を巻き起こし、ロンドンの町は酔っ払いであふれた。
酒は風土を反映し、地域の風土、気候、土壌は、その土地で作られる酒の味わいに直接影響を与える。例えば、日本酒は、米と水の質が味を決定づけ、地域ごとに異なる特徴を持つことが知られる。同様に、フランスのワインやスコットランドのウイスキーなど、各地の気候や地理的条件が、その土地特有の酒を生み出す。製造方法は大きく醸造酒、蒸留酒、混成酒に大別される。旅人がその土地の酒を味わうことは、風土を体験する一つの方法で、酒を通じてその土地の歴史や人々の暮らしに触れることができる。

ヤシから採れる液体を醗酵させて作ったヤシ酒は、パームワイン（Palm wine）とも呼ばれ、東南アジアやアフリカの赤道付近で比較的有名な酒。ナイジェリアでは「emu」や「oguro」、コンゴでは「nsamba」や「malafu」、ガーナでは「nsafufuo」、インドの南部では「kallu」、スマトラ島の北部では「tuak」、ボルネオ島では「goribon」や「tuba」、フィリピンでは「tuba」と呼ばれる。1952年刊のアフリカ文学の最高峰「やし酒飲み（エイモス・チュツオーラ作／土屋哲訳／岩波書店刊）」は有名

パンツスカートをはいた女性たちが、シャンパーニュ地方でワインを収穫している様子（1910 年頃）。ワイン用のブドウは「ワインベルト」と呼ばれる緯度帯の国や地域でしか栽培できないことが知られる

シャトーとブドウ園（フランス・ボルドー）。フランス語の「シャトー」は、城館を表す言葉で、ボルドー地域においては転じてブドウ園や管理場、生産者のことをも指す

シュツットガルト（ドイツ）で開かれる大規模なワインの祭り「Stuttgarter Weindorf」。ドイツもワインの名産地として知られ、ブドウの収穫時期に産地で行われるワイン祭で飲まれる

ホップ摘みのようす（1900年頃）。ビール醸造は修道院で発展し、特にドイツやベルギーでは品質が向上していった。この時期にホップが使われるようになり、ビールの保存性や風味が改善された

ビール醸造所の発酵タンク。ビールは造り方や材料によってさまざまな種類があり、エールは麦芽が発酵した際の上面発酵を使い、ラガーは下面発酵を使ったもの。小さな醸造所で造られている「クラフトビール」も最近人気

タイのマーケットで売られるビール。すっきりとした爽快な味わいが特徴のラガービールは、湿気が多く暑い東南アジアで一般的に好まれている

ドイツ伝統の味や文化に触れる秋のイベント「オクトーバーフェスト」。ドイツの伝統料理や伝統音楽などを楽しむこのイベントはミュンヘンで約２週間にわたって行われる

スコットランドのヘーゼルバーン蒸留所で働く労働者。液体を蒸発させて造るウイスキーの蒸留のようす。中央の男性は蒸留器の下で火をくべている

ウイスキー樽の内面を火で焦がすことをチャー(char)と呼ぶ。樽を焦がすことで、熟成させるウイスキーの原酒の風味や香りをより高めることができる

多くのコンペティションでNo.1となり、「シングルモルトのロールスロイス」と讃えられる、ザ・マッカランの蒸留所。美しく豊かな自然に囲まれたスコットランドのスペイサイド地方に所在する

高級ブランデー「コニャック」の蒸留所。オランダ語の焼いたワインを意味する「brandewijn」が語源のブランデーは果実酒を蒸留して造られる。伝統的な銅製のポットスチルを使い、熟成樽で２年以上熟成させる

リキュールは中世ヨーロッパで飲まれた薬用酒がもとになっている。同時に医薬的効用から美しさを求める当時の貴婦人たちに愛された。現在は蒸留酒に、ハーブや果実などを漬けて糖分を加えて造る

ウォッカは、ジンやラム、テキーラと合わせて「世界4大スピリッツ」のひとつに数えられている。ロシア原産の酒とされるウォッカのアルコール度数は40～60度と高めで、外気温がマイナス30度でも凍ることはない

従来の「濁り酒（どぶろく）」から清酒を大量に醸造する技術は、兵庫県伊丹市で生まれた。寛政11年（1799年）「日本山海名産図会」酒造の項

日本酒は白米を蒸して、米麹と水を加えて発酵させて造る酒。精米歩合によって、吟醸酒、大吟醸酒、純米酒、純米吟醸、純米大吟醸、特別純米、本醸造、特別本醸造などに分けられる

アルコールを生産する酵母菌を増やすための酒母つくり。天然の乳酸菌を育成して乳酸を作り、アルコール発酵を促す

2,500年以上の歴史を持つ紹興酒は、米から発酵させた中国の黄酒で、最も有名な品種の1つ。炊いた米を瓶に入れて酒を造るようす

紹興酒は、甕（かめ）での熟成によって、豊かな風味が生まれる。通常、米、麦芽、酵母を使って醸造され、熟成期間が長いほど風味が深まるとされる

テキーラの原料となる植物「アガベ（竜舌蘭）」。葉を落とした茎部分が原料となる。テキーラは、メキシコのグアダラハラ市近郊「テキーラ地域」で造られなければテキーラと名乗ることができない

産地であるメキシコのイメージが強いテキーラは「サボテンのお酒」と誤解される。メキシコの特産物がサボテンであることから、「メキシコ＝サボテン」という解釈からきているらしい

世界の飲酒と酒税が明かす世界史

WHO（世界保健機関）の調査によると、世界の飲酒人口は、宗教上の理由などにより飲酒しない人が約31億人（成人人口の57％）、飲酒している人が約23億人。2019年に15歳以上でアルコール依存症など健康を害した人の数は推計4億人。このうち、2億900万人がアルコール依存症という。アルコールによる死亡者数は、年間260万人（2024年6月）で、全死亡数の4.7％を占め、男女比率は、男性が76.9％。
健康リスクがあるにもかかわらず、太古の時代から人類が飲酒を続けてきた理由には、清潔な飲み水の入手が困難だった古代では、アルコールを含む飲料は腐敗しにくく、病原菌が繁殖しにくいため、水よりも安全な飲み物＋栄養素を含むエネルギー源と見なされたことに加え、宗教的儀式や祝祭、儀礼の一環として酒が使用され、飲酒の習慣を促進したと考えられている。
また、酒税の起源は古代エジプトやメソポタミア文明に遡り、ビールやワインの製造に税を課すことで、政府の財源として利用。古代ローマやギリシャでも同様に、酒類に対する税は国家の財政基盤の一部だった点も見逃せない。19世紀から20世紀にかけて、工業化と都市化の進展により酒類消費が増加し、各国政府は酒税を強化して財源を確保する一方で、過剰消費による社会問題を抑制する目的もあった。アメリカでは1920年代の禁酒法（Prohibition）時代に一時的に酒類の製造や販売が禁止されたが、密造酒が横行し、税収の減少や犯罪の増加が社会問題となった。
奈良時代から平安時代まで、日本酒の製造は主に神事や祭事に関連し、酒造は、主に寺社や豪族などの特権的な集団によって行われた。室町時代には、商業的な酒造が発展し、酒造家からの「運上（うんじょう）」と呼ばれる納税が始まる。明治5年（1872年）、日本初の酒税法が制定され、政府は全国の酒造業者に酒税を課すことで安定した財源を確保。酒税は国の歳入の重要な部分を占め、最大で政府の歳入の3割以上を占めた。日本の「チューハイ」は、酒税法におけるリキュールとスピリッツの２つに大別され、スピリッツとは、広い意味で蒸留酒。代表的なものとして、ジン、ウォッカ、ラム、テキーラなどを分類。リキュールは、スピリッツに香味成分を配合し、別種の味わいに仕上げたもの。
今日では、酒税は多くの国で重要な財源と同時に、酒税を上げることで、飲酒の抑制を図る国も多くあり、健康政策の一環としても利用される。日本でも、少子高齢化や消費者の嗜好の変化に伴い、酒税の見直しが議論されている。