感染症パンデミックの歴史

ベンジャミン・ジェスティ（1736～1816年）。イギリスの農民であり、牛痘を使用して天然痘に対する免疫をつくる初期の実験を行った。1796年に天然痘ワクチンを発見したことで功績を認められたエドワード・ジェンナーよりも、20年早い発見だったが当時公表していなかった

米国・ウィスコンシン州の移民居住者が、天然痘患者の検疫病院への移送に抵抗している様子。木版画。1894年

英国・キングスクロスの天然痘病院。1800年

フランス領インド、1827～1835年。トランペット奏者は、天然痘の患者が近づいているという警告をしている可能性がある

エルナン・コルテスの肖像画。18世紀。現在のメキシコ近くで栄えたアステカ文明は、当時世界最大級の都市だったが、エルナン・コルテス率いるスペイン人たちが天然痘を持ち込み、人口は10分の1以下に激減し、滅亡することになった

ドイツの博物学者であり探検家のアレクサンダー・フンボルトの肖像画。「アステカ」はフンボルトが名付けた造語とされている。「自然とはすべてのものがつながって巨大な生命体だ」というアイデアで、同時代の人からは“科学界のシェイクスピア”と言われていたという。フンボルトペンギン、フンボルト海流など約300種の植物と100種を超える動物の名前がフンボルトに由来している

高齢のアステカ人が喫煙や、プルケと呼ばれるメキシコの伝統的な醸造酒を飲んだりしている様子を描いたメンドーサ写本（メキシコの絵文書）。謎の多いアステカ文明について描かれている。スペインによるメキシコ征服後の1533年に作成

1519年、エルナン・コルテスと600人のスペイン人征服者がメキシコ湾岸に上陸。在位中に積極的な遠征と中央集権化を行っていたアステカ帝国の第9代皇帝、モクテスマ二世。スペインとの接触にアステカ市民が怒り反乱軍となり、槍や石を投げつけられて死亡したとされている

ペルーの征服者、フランシスコ・ピサロ。19世紀。手彩色の木版。空中都市マチュピチュで有名なインカ帝国は、天然痘の大流行で人口が激減し、皇帝らも天然痘で死亡し、王位をめぐり内戦が起きていた。わずか168名の部隊だったピサロによる征服の勝利の原因は、天然痘だったともいわれている

右目の視力を失い、「独眼竜」として知られる伊達政宗。失明の理由は、天然痘によるものとされている。天然痘は、6世紀に渡来人によって日本にもたらされ、戦国時代まで流行を繰り返した

天然痘で苦しむ人の様子。スペインのフランシスコ会修道士、ベルナルディーノ・デ・サアグン著

天然痘ウイルスの電子顕微鏡写真。天然痘の最後の自然発生例は1977年とされている

19世紀前半、江戸時代後期の蝦夷地ではアイヌ人口が減少。その原因は海の交易によってもたらされた天然痘の大流行とされている。第162回直木賞を受賞した『熱源』（川越宗一著／文藝春秋刊）では、樺太アイヌをコレラや天然痘の疫病が襲う様子が描かれた

聖武天皇が位についていた天平9年（737年）、政治の中枢にいた藤原四兄弟が相次いで天然痘で死去。当時の日本の人口の4分の1にあたる100万人以上が落命した。そのほか天平時代には、飢饉や大地震などで社会が不安にさらされていた。聖武天皇は国を安定させたいという願いを込めて、東大寺の大仏を造ったと言われている

ジョヴァンニ・ボッカッチョによる『デカメロン』内の挿絵。『デカメロン』は、ペストの流行から逃れて邸宅に引き籠ったフィレンツェの10人の男女が10日間にわたり、退屈しのぎに話をする物語。所蔵：プライベート・コレクション

画家・Bernhard Strigelによる、聖ロクス。ペストに対する守護聖人とされており、ヨーロッパで崇敬の対象となっている。絵画や肖像では、裂傷を負った足を見せて立っている

『死の舞踏』（木版画）。「死の舞踏」はヨーロッパでのペストの流行を背景に広がった、死者と生者が踊る図や詩を表しており、教会や墓地に描かれた。ローマ教皇や皇帝、国王から枢機卿、司祭などの聖職者、騎士や領主、商人や農民、さらに子供までが含まれて、死は平等に誰のもとにもやってくることを示している

英国・イーム村。村の仕立て屋にノミの湧いた布がロンドンから持ち込まれ、ペストの感染が広まったとされている。数百人の村民が死亡し、村全体を隔離するという当時前例のない手段で生活したことで有名

17世紀のイタリアのペスト医師シュナーベル・フォン・ロームを描いたパウル・フュルストの版画。1656年。一種の保護衣で、マスクのくちばし部分には、クローブ、バラの花びらなど悪性の空気から身を守ってくれると考えられているものが入れられた

ピーテル・ブリューゲルによる『死の勝利』（1562年）。ヨーロッパに壊滅的な打撃を与えた疫病と戦争が強烈に描き出されている。所蔵：プラド美術館（スペイン・マドリード）

ペスト菌のコンピューター・イラスト

ペストが猛威をふるう香港の様子。1894年7月21日

日本でペストが流行したのは、1899年。ネズミの駆除を目的に、1900年に東京でネズミの買い上げが開始された（当時もりそば・かけそば：1～2銭）

ペストの研究に取り組んだ微生物学者・教育者、北里柴三郎。ドイツ留学で、コッホのもとで細菌学を学び、破傷風・ジフテリアの研究で世界手的に有名に。パンデミックが起こった1894年に香港へ渡り、ペスト菌を発見

医師・アレクサンドル・イェルサン。近代細菌学の礎を築いたパストゥールの弟子。1894年、北里柴三郎と同時期にペストが蔓延する香港でペスト菌の同定に成功

カンザス州の基地でスペインかぜにかかった米軍兵士たち。当時は報道規制がかけられ、欧米メディアは感染拡大について報道することを禁じられていた。ところが、スペインではこうした報道規制がなく、新聞が盛んに感染拡大を報じたことから「スペインかぜ」と呼ばれるようになったという

1920年ベルギー・アントワープで開催されたオリンピックの様子。新型コロナウイルスと東京オリンピックの状況と似ているが、まだ世界的にスペインかぜの被害はある中、欧米ではすでに収束していたため開催されたとされている

1918年10月、ミズーリ州。スペインかぜの患者を赤十字が救急車で運んでいる

マスクを着用しているシアトル警察

1918年のインフルエンザウイルスを再現したもの

米国オレゴン州でマスクをつける学生たち。スペイン風邪は、15～35歳の健康な若年者層においてもっとも多くの死がみられ、死亡例の99%が65歳以下の若い年齢層に発生した

1918年、マスクをつけるように促す日本のポスター。日本では、人口の約半分にあたる2400万人が感染し、39万人が亡くなった

1918年に描かれた漫画。マスクをつけてショッピングをする人々の様子が描かれている。 下のキャラクターは、「ホリデーショッピングはチャンスだったのに、マスクを通り抜けることができない」と言っている

香港かぜと呼ばれる、インフルエンザウイルスの顕微鏡写真。1968年に香港でパンデミックが起こり、香港・台湾・シンガポールなど東南アジア全域に拡大。倍率：420,000倍

1922年、ジェノバで開かれた国際連盟の評議会。国際連盟は、第一次世界大戦後に創設された史上初の国際平和機構。1920年1月10日に発足。第一次大戦の未曽有の事態から、国際平和維持を目的に設立