人新世

SPECIAL FEATURE

人新世

ノーベル化学賞受賞者として有名なオランダの大気化学者パウル・クルッツェン(Paul Crutzen:1933-2021)は、温暖化の加速、生物多様性の損失、生態系の破壊などの人類が引き起こした地球の生態系への過剰負荷は、6,600万年前の小惑星衝突の影響に匹敵し、新しい地質時代「人新世(anthropocene)」に入った可能性を示唆。
パウル・クルッツェンの論文は、1990年代、地球科学分野で最も多く2,911回引用され、自然に対する新しいコンセプトを提起し、人々に人間と地球の関係の根本的な意識改革を促す。人新世がはじまった時期には諸説あり、1784年にジェームズ・ワットが蒸気機関を発明した産業革命後とする説が有力。

Category : 教育

Date : 2021.05.13

参考文献

The Anthropocene: The age of mankind – Docu – 2017(VPRO)
Anthropocene – IGBP(The International Geosphere-Biosphere Programme)
新世界秩序を求めて/高谷好一著(中央公論社)
地球環境報告/石弘之著(岩波書店)
自然保護という思想/沼田真著(岩波書店)

自然保護の歴史

紀元前のエジプト、アッシリア、バビロニアなどでは、動物園、樹木園、果樹園、植物園、水鳥の池、公園の緑化など、人間が手をくわえて自然を守ることが行われていた。また欧州では、狩猟用に広大な森林を保護し、シカなどの野生動物を増やし、貴族のための狩猟用保護地域(ゲーム・リザーブ)として自然を守った。英国ロイヤルフォレストやオーストリアのウィーンの森は、現在でも見ることができる。
自然保護の概念には、プロテクション(保護)とコンサベーション(保全)の考え方があり、プロテクション規定は、アレキサンダー・フォン・フンボルト(Alexander von Humboldt:1769-1859)が1807年に発刊した著書「天然記念物(monument de la nature)」に、またコンサーベーション規定は、米国のヘンリー・デーヴィッド・ソロー(Henry David Thoreau:1817-1862)が1854年に上梓した著書「ウォルデン(Walden:森の生活)」に由来するとされる。

地球と共生する世界

6,600万年前、小惑星が時速6万4,000kmで地球に衝突。推定でTNT火薬100兆トン分規模の爆発を起こし、直径185キロ以上のチクシュルーブ・クレーター(Chicxulub crater)を作り出し、連鎖的に地球規模の大災害が引き起こされ、生物のおよそ80パーセントが消滅。恐竜もそのほとんどが姿を消した。これが白亜紀(cretaceous period)後期の第5期大量絶滅とされている。
地質時代区分では、6,600万年前が中生代と新生代のボーダーで、現在は新生代の完新世(Holocene)にあたる。1万1,700年前にはじまった完新世以降、人類が地球の資源と環境に与えた影響は驚異的で、過去300年間に人口は10倍に増え、牛の個体数は14億頭に増加。魚と同量のプラスチックを含む海と、人類全体を窒息させるに十分な二酸化炭素(CO2)で満たされた大気を生み出した。都市化は過去100年間でさらに10倍に増加し、数億年にわたって生成された化石燃料を使い果たしている。

想定外が次々と起こるVUCA時代

技術革新、経済発展、人間中心主義、合理的思考の組み合わせからなる現在の人間社会システムは、取り巻く環境の複雑さを増し、過去の延長線上では判断できない大変革期をむかえている。このような時代を、不安定(Volatility)、不確定(Uncertainty)、複雑(Complexity)、曖昧(Ambiguity)の頭文字をとった「VUCA(ブーカ)時代」と呼ぶ。想定外の出来事が次々と起こるVUCA時代では、パンデミックや地球温暖化に起因する気候変動や異常気象、大地震などによる災害が頻発するという。
東京大学の目黒公郎教授の研究では、南海トラフ地震による被害総額は約220兆円、避難者数430万人、死者数32万人と試算され、首都直下地震では、被害総額は約95兆円、避難者数700万人、死者数2万3,000人になる。また土木学会の試算では、南海トラフ地震後20年間の長期的な経済損失は1,541兆円、首都直下地震では855兆円に達し、国の存続さえも危ぶまれる災害規模になると予想されている。
日本損害保険協会の調査では、2018年の自然災害の保険金支払額は、前年比8.4倍の1兆5,694億円で、調査をはじめた1970年以降最大。東日本大震災の2011年を上回る。近年、多発する自然災害で、損保各社は2018年10月以降、火災保険料を値上げしている。

お問い合わせ・ご相談 無料

こんな写真を探している
こんな企画があって写真を多数使用したいなど、
ご相談は無料で承っております。

TEL 03-3264-3761 mail お問い合わせフォーム
×
×CLOSE